普段映画はみない。人はすぐ死ぬし、すぐオバケが出てくるし、すぐ恋愛するし、すぐ鉄砲を打ちあうし、すぐカーチェースをする。というわけで、あんまりみないのだけど、『イカとクジラ』（※）という映画がとても好きなので、同じ監督の作品である『フランシス・ハ』をみに行った。
（※）この映画の最後には大きいイカとクジラがでてくる
舞台はニューヨーク。映画はモノクロで撮られている。随所にいろんな映画のオマージュがあるらしいけど、詳しくは知らない。
主人公のフランシスは、２７歳で老け顔で全体的に体が大きく、精神的に幼い。大学を出てニューヨークでダンサーになるべく奮闘するのだけど、贔屓目にみてもどんくさく、上手な感じはしないし、実際に公演を外されたりする。
フランシスは、出版社に勤める友人のソフィーと一緒に同居していて、そこで楽しく遊ぶことを一つの心の支えにしている。でも、ソフィーは家賃の高い他の地区に引っ越してしまったり、付き合っている男性についていき東京に行ってしまったりと、人生をどんどん先に進めてしまう。というのがだいたいのストーリー。
まず、なにが良かったのかというと、フランシスは私だ、と思ってしまったからだ。映画をみて「これは私」なんて思ったことないし、すごいバカっぽいから言いたくないんだけど、声を大にして言いたい。これは私だ。そして、部屋を片付けられなくてずぼらで不器用で高身長の女はみんな思うはずだ。これは私だ、と。
フランシスはソフィーのベッドに靴下で上がって注意されるし、「痩せなきゃ」と言いつつ映画を観ながらご飯をくちゃくちゃ食べる。友人との食事会でかみ合わないトークをし続ける。
それでもフランシスは、度重なる不幸にも関わらず、全然泣かないし、全然愚痴を言わない。大きな身体でドスドスと走っていく。フランシスの大きい身体が愛おしくなる。
というわけで、気にいったシーンをだいたいのあいまいな記憶で書く。
○フランシスとソフィーがベッドでお話する
「未来の話をして？」
「また」
「私たちはすべてを手に入れる」
「出版業界のカリスマと」
「有名なモダンダンサー」
こっから、有名になって表紙の雑誌をつくったり、大学の客員教授になって引っ張りだこ、という途方もなく安直で楽しそうな「未来の話」がつづく。未来が不安な中で、現実逃避よりももっと前向きに、とりあえず勇ましくなれる話をして自分を納得させる感じ。私も就活中、某出版社に入って「入社できたら神楽坂でふぐをおごってあげる」「わーすごい」と話した。試験は落ちた。ぜんぜん神楽坂でふぐをおごれる年収に達していない。未来は明後日の方向に進んでいくな。泣ける。
○転ぶシーン
ソフィーが引っ越してしまい寂しいフランシス。ポストをあけると税金返ってきたというお知らせが。この前の飲み会であった男性を誘ってごはんを奢ろうとするんだけど、カードが使えない。もう一枚出すけどそれも使えない。「いいよ、奢るよ」という男性を制して、走ってATMを探しに行く。一つ目の店のATMはこわれている。走って走ってさがしまくって、やっとたどりついたATM。「深夜料金だから3ドルかかります」の電子パネルを、すこし逡巡し、「YES」と押す。走って戻るけれど転んで怪我して肘から血を出す。時間外のATM利用は、人間の不器用さとだらしなさが全部集約された瞬間だ。「頼む！手数料かからないで」とスクリーンの前で祈り、「3ドル」の画面が出たとき、心の中でひぃっと悲鳴をあげた。
○ソフィーの首絞められギャグ
フランシスのダンスの発表をソフィーがみにくる。終演後、嬉しそうにするフランシス。実はソフィーは恋人も連れてきていた。複雑な顔をするフランシスの前で、二人はいちゃいちゃしだし、「もう、お前～」みたいな首絞めギャグをして、ソフィーは舌を出しおどけた顔をする。このギャグが恐ろしくつまらない。本当に恐ろしくつまらない。つまらないからこそ、二人の仲の良さが伝わってくるし、こういうことを私たちはバカにしてきたんじゃないのとフランシスは失望したはずだ。私も中学時代一番仲良かった子が、だんだんと色とりどりのペンで手紙を彩ることやプリクラにこりだした時、同様の失望を味わった。二人でラップをつくって笑い転げた日々はもう戻ってこないんだと。
私は、「少年の心を持った男性」がひどく嫌いだ。少女が少女でいられる時期はすごく短い。だから、男性がすごくすごく羨ましいし、妬ましい。もちろん、少年もいつまでも少年では本当はいられないことは重々承知なんだけど。でも、フランシスはそこをドタドタと大きな身体で走っていく。ありがとう、ありがとう、と何にありがとうなのかわからないけれど、拝まずににはいられなかった。
2015/11/24
