減るもんじゃないけど

毎朝、満員電車にのって通勤している。そうすると、頻繁にっていうほどじゃないけど、稀に痴漢にあうことがある。本人は「うっかり」を装って触っているつもりなのかもしれないけれど、意図は露骨に伝わるものだ。そういう時は場所を移動するか、一度電車を降りて乗りかえる。幸運なことにそれ以上の被害にあったことはこれまでない。

「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。」(引用『阿修羅ガール』)というのは文脈は違うけどよく言ったもので、減るもんじゃないらしいけど、痴漢されると自尊心は減る。

今日は足を出し過ぎていたのかなとか、ジーンズにスニーカーだったけど逆に地味すぎて反抗しないと思われたのかなとか、隙があったのかなとか、考えても考えても仕方のない反省ばかり頭に浮かぶ。

それで、今日、痴漢にあったのだけど、その様子がいつもと違っていた。というのも、見つかることに無頓着だったのだ。「これはさすがに」とびっくりして、後ろを振り返ると、黄色いジャンパーを着たまつ毛の長いお兄さんが触っていた。痴漢するのに黄色いジャンパーなんてふてぶてしいな、とちょっと思って、目を合わせてすごく怒っていることを伝えると、お兄さんは長いまつ毛にに囲まれた目をわざとらしくそらした。

駅につき、乗客が動くのにあわせて、場所を移動したが、彼はちらちらと何度も私の方をみた。本当に嫌な朝だなと思いながら、よくよく様子をみていると、あ、もしかして、お兄さんには知的な障害があるのかもしれないと気が付いた。その瞬間、怒りの矛先をどこに向けていいのかわからなくなった。

ちょっと前に、友人が路上生活者とおぼしき人に痴漢されたことがあった。昼間、割と人通りが多い住宅街を散歩していた途中だった。その時彼女は泣きながら、「もうホームレスの人なんてみんな嫌いだ」と言った。その時「気持ちはわかるけど、そんなことを言ってはいけない」と諌めたのだけど、私の中から出てくる感情はそれとそっくりだった。

ちなみに、友人に同行して警察に行った。「まぁ、気をつけてとして言えないですね」と警察官のお兄さんはへらへらと言い、「昼間に住宅街を歩いていて、それで『気をつけて』って言うんですか」と私はすごく憤って言い返したのだけど「もういいよ。ありがとう。もういいです」と友人は泣きそうな顔で私の袖を引っ張った。

目的地の駅につき、入口付近で降りようと待っていると、彼はぬめりと不自然に密着してきた。私は怒った顔ができなかった。黄色いジャンパーのお兄さんについて、当然だけど私は何も知らない。だから、「知的な障害があるかもしれない」とここで書くことが、正しいのかはわからない。でも、もしそうだったとして、彼に怒らなかったのはフェアな態度だったのだろうか。

自尊心が奪われる目にあったときには、「我慢すればいい」と思わずに、いちいち怒らないといけないと思っている。だから、相手がどんな属性の人であろうと、痴漢されたことに対しては憤りたい。でも、被害の重さの分だけ、多くもなく少なくもなくきちんと怒るのは難しい。私はどれくらい怒ればよかったのだろうか。

2015/11/30

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