パーティはあらゆる名詞を祝福する

住本さんと、紅白をみることになった。18時の約束に私は5分遅れて、坂の上にある住本さんの家の近くのガソリンスタンドについた旨を報告した。

そのガソリンスタンドは、陽気なラテン音楽が大音量でかかっている。私ものりのりで音楽に身を任せた。でもあまりにものりのりだと恥ずかしいので、膝をかくんかくんと小さく揺らすにとどめた。このガソリンスタンドでは、いきなり道行くひとに大根を配ることもあるらしい。

「ちょっ、坂の途中のスーパーで待っとって、あとちょっとやけん」

と連絡がきて、何が「あとちょっとやけん」なのかは全くわからないまま、のりのりのラテン音楽に背を向け、坂を下って反対側の道路に渡り、スーパーに入った。

スーパーでは安っぽい「喜びの歌」が大音量で流れていた。

「蕎麦パ」をしよう、と住本さんは言っていた。「パーティはあらゆる名詞を祝福してくれるんだよ!」と熱弁していた。めぼしい食材に目をつける。あの天ぷら盛り合わせなんか、安くなってていい。スーパーのあらゆる惣菜には赤い割引のシールがぺたぺたついていた。

それにしても、安っぽい「喜びの歌」は隙間なく続いていく。はじめは楽しくハミングをしたり、指揮者の真似をしていたけれど、だんだん自分の存在が脅かされてきた。困ったなぁと思いながらスーパーの外にでて、自動ドアが反応しない場所に立つ。もうすっかり暗くなっていて、通る人たちはいつもより真剣な顔で歩いている。

それにしても、住本さんは全然来ない。「あとちょっとやけん」はもしかしたら、年末に来た強大な敵をウルトラマンのごとく倒している最中なのかもしれない。ヒーローの年末進行も大変だ。

首にぐるぐるまいたマフラーに顔をうずめて、膝をぴょこぴょこ動かし時間をつぶした。関節がぽきぽきなって面白い。目の前に自転車が止まった。父親らしき男性と、その子どもらしき女の子が前のかごについたシートに乗っていた。「お父さん、スーパー、年末なのにやってるの」「うん。スーパーっていうのはえらいもんなんだよ」女の子は、私をちらりとみたので、私は会釈をした。無視された。

えらいスーパーなので、チープな喜びな歌が流れていることくらい、大人なら我慢すべきだと思って、私はかごを握りしめてスーパーに戻った。いくつか、めぼしい食材をかごにいれた。一番めぼしかった天ぷら盛り合わせはもうなくなっていた。

来年は、もっと我慢しなきゃいけない。来年の自分に無責任な約束を押し付ける。年末だからって改まって何かを考える必要はない。年が始まろうが終わろうがいつも通りに生きていけばいいのに。反省や意気込みなんかなしに、年末のおいしいところだけ味わいたいと虫のいいことを思った。お酒もたくさん飲んでいいし、ステーキと魚を同時に食べたっていい。デザートはハーゲンダッツにしてもいい。

「どこにおる」

と連絡がきて、住本さんは一応申し訳なさそうに手を振って登場した。いつものベージュのコートを着ている。

私はスーパーの食材にすっかり詳しくなっていたので、どこに何があって、いくらなのか、自慢げに説明した。サイコロステーキ、ベビーリーフ、ワンタン、刺身、ホタテの缶詰、松前漬け、サッポロ黒ラベル、アサヒスーパードライ、日本酒、などをかごに入れた。天ぷら盛り合わせはなくなっていたので、えびが3本入ったやつを買った。「誰が二本食べるのかじゃんけんね」と私は念押しした。

会計をすませて、袋に食品を詰め込んでいると、そういえば、ハーゲンダッツを食べようとしていたことを思い出した。

「ハーゲンダッツ食べたい」と私は言った。
「いいね」
「私はバニラ味ね」

住本さんは、アイスの入ったボックスに小走りで移動した。真剣に選んでいる。私は、どの順番で袋詰めしたらいいのか、真剣に考えた。

「ねえ」
「どうしたの?」
「バニラで本当にいいの? ほかの味と同じ値段だよ」

住本さんは、バニラが他より安いから私がバニラにしたと考えているようだ。なんだよそのアイス観、と思いながら、私は「バニラがいい」とけらけら笑った。年末にバニラ味はよく似合いそうだ。

喜びの歌はあいかわらず、隙間なく流れている。

2016/01/01

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です