魚の目

日中は友人の直江さんと仕事をしている。仕事に飽きたら、最近考えたことを話している。 「このごろ、恋愛について考えたんだけど」「ほう」「私が恋愛、というより正確には恋人に求めようとしているのは、パケ放題だと思うんだよね」 …

コーヒーと重み

階段をのぼる足音が聞こえる。 間借りしている浅草のオフィスは4階にあり、ビルにはエレベーターがないので、みな階段であがってくる。 マエムラさんはコツコツと柔らかく、Sさんはのしのしといつも同じリズムで、Yさんはトツトツと…

自転車をこぐ

中野のワインバーに少し遅れて行くと、『1984』の黒いTシャツを着たメガネの男性が座っていた。冬にTシャツを着る人間の大らかさが好きなので嬉しくなった。 ライター仲間のMちゃんが男性を紹介してくれた。その男性のことについ…

ピザと夜

東京の冬は寒く、ひもじい。仕事は忙しい。見通しも立たない。夜はもう遅い。私はしおしおとしおれてしまい、間借りしているオフィスの机につっぷした。 ぽてちゃんがもうダメや、と私と同じように間借りしているマエムラさんは、仕事の…

魚になる

恥を忍んで、10年来の親友ふたりに「私、どういう男の人と付き合うと、うまくいくと思う?」と聞いた。 ふたりには別の場所、別の時間に聞いたけれど、「あなたの人生についてきてくれる人。我がない方がいい」と同じように解答した。…

喪があける

そういえば去年のいまごろ、祖父は居間に運ばれた簡易ベッドに横たわっていた。もうあとは死ぬだけということは、誰にも分かっていた。 夜は深かった。私といとこは、祖父の足や手をさすり続けていた。隣の畳の部屋には、おばと母が仮眠…